2021年2月、四国の駅ノートを描きに行くついでに、1つ思い出した
廃線跡として香川県の屋島ケーブルの跡地を探りに行きました。
四国へは通常、車で淡路島を経由して行くのが最短ルートです。
…周知の通り淡路島には現状で鉄道が無く保存車や廃線跡も少ない
ので、いつも素通りになってしまいますけどね。
適度に休憩を挟みつつ四国へ入って、3時間程で最寄駅となる琴電
屋島駅に到着しました。…コレまた味るある駅舎じゃないですか。
昭和4年に建設された駅舎は、近代産業遺産に指定されています。
天井のデザインと照明がレトロモダンな雰囲気でお洒落ですね。
無人駅のようで元の出札カウンター付近にノート状の物体が見えた
のですが、駅ノートではなく琴電の営業規則集(輸送約款)でした。
…ちょっと安心。今から発見してしまうと予定が大幅に狂うわよ。
屋島は源平合戦の古戦場であり、四国八十八か所霊場の1つでも
ある屋島寺もある古くからの観光地です。屋島寺は意外と急斜面な
山の上にあるので、以前は同駅の近くに屋島ケーブルがありました。
社員旅行で行った八栗寺と同じような状況です。位置的にも屋島は
八栗の隣町みたいな所ですね。それが平成16年に資金難となって
休止、翌17年に廃止されたそうな。
…駅前にあった観光案内図には まだケーブルカーの絵が残っており、
「運行休止中」と追記されてました。
ちなみに現在は、昭和30年代に開通した観光道路を経由するバスで
登る事が出来ます。
ではココから屋島ケーブルを探りに行きましょう。…事前に見た資料
では廃止から十数年が経過してるものの、駅や車両などが残ってると
言う話なのです。
スマートフォンの地図アプリで確認しても駅跡や廃線跡は出てきません
ので、航空写真に切り替えてみると、明らかにケーブルカーの線路だと
思われる物が写ってます。
駅前から真っ直ぐ延びる道の先にも、ソレらしい物が見えますな。
コレならすぐに行けそうな雰囲気ですよ。…と言う事で車で1分程度、
屋島ケーブルの跡地に着きました。
同ケーブルが休止されたのは平成16年の事だそうで、現状で20年近く
経ってるワケですが、駅のホームと車両などが残っています。
元はホームの前に駅舎があったようですが、現在は撤去されて地区の
公民館に変わったようでした(無関係だと思って撮らなかった)。
休止から翌年の平成17年に正式に廃止されたものの、ケーブルカー
の車両なんてのは他に転用が効かない物だろうし、駅舎にしても解体
するにもカネが掛かる話なのでしょう。
駅名票などもカナリ錆びてますが判読出来る状況で残っていました。
屋島ケーブルの正式な社名は屋島登山鉄道、駅は屋島登山口と
屋島山上の2箇所だった事になりますね。ご丁寧に営業キロまで
書いてありますが0.8kmと言う事でしょうか。
昭和4年に開業して戦時中は不要不急路線として休止されたものの
昭和25年に復旧。一時期はコトデンの傘下にあったのが、グループ
企業から外れて経営が立ち行かなくなったそうな。
駅の設備は昭和4年の開業時からある物なのでしょう。ゆるくアーチ
した屋根やタイル製の乗車位置案内に時代を感じます。屋根は一部
で朽ち果ててる箇所もあるようでした。
車体は一般的なケーブルカーにしては長く見えます。最初は2両編成
かと思ったんですが、どうやら交互に走る2両とも麓の駅に降ろして
あるようですね。
改めてWikipediaを見たら平成25年に山上側の車両を降ろしたそうな。
…確かにそのままだと、ワイヤーが劣化して切れた時に危険でしょう。
ついでに同記事を読むと、現役時とは塗装が変わってるようです。
また前後の車両の間はピッタリ合うサイズに加工した板で塞がれて
おり、保存されてるでもナイのに不思議な状況だなと感じました。
駅のホームにも入れるので、先頭部分に回り込んでみました。
…確かに2両並べるとホームの長さが足りません。
線路や滑車なども残っていますが、ワイヤーはありませんでした。
車両はガラスが割れてる所もありますが、落書きなどの人為的な
荒廃も少なく概ねキレイです。…つくづく不思議な空間ですね。
…この線路をずっと登って行けば山上の駅に着く筈ですが流石に
立入禁止かも知れず、また倒木などで物理的に通行が困難なように
感じられるので、山上へは後で車で登ってみる事にしましょう。
2両あるうちの下側の車両は扉が開いたままなので、車内に入る
事が出来ました。折角なので中も少し見ておきます。シートなどの
設備がそのまま残っており、掃除すれば使えそうな感じですな。
…てかコレはホントに「保存しよう」という意図で置いてあるのか?
撤去するにもカネが掛かるから放置されてるだけの気もしますが。
2両あるうちの下側の車両は扉が開いたままなので、車内に入る
事が出来ます。ケーブルカーと言うのは山上側の駅にある滑車を
回して動くから、通常の電車のような運転機器はありません。
ソレにしてもエラく線路の終端ギリギリまで降ろしてあるものですね。
…ぁ、ワイヤーを外してあるから必然的にそうなるのか。
恐らくはショックアブソーバーになっている部分がホントに密着してる
状況って、なかなか見れるもんじゃナイですよ。
車両の前後にある、大きなブレーキハンドルが置かれてました。
…自動車のサイドブレーキに相当する物で、停車したら乗務員さん
が絞めて固定する物ですね。
2両の連結面と言うのか、外からは板で塞がれてて見えなかった
部分ですが、妻面の窓を開けたら元の塗装が残ってました。
コレまたWikipediaに正解(現役時の画像)がありますが塗装は白地
に赤のツートンカラーで、現状で下側になってる1号車が「義経号」
上側の2号車が「弁慶号」と言う名前だったようです。
…まぁ屋島だから源平合戦に因むとそうなるか。戦時中の休止から
復旧した昭和25年から廃止時まで更新なしで使われてたようです。
敷地の脇には配電室らしき設備も残ってました。
Wikipediaによると運行休止になる直前の最終日、約800人の観光客
(とは書いてあるが葬式鉄だろう)が押し掛けたんですが、始発前の
試運転の時に電気系統のトラブルが起きて動かなくなったそうな。
…結局はそのまま終日事故運休です。もしかしたらシステムが辱めを
嫌って自殺したのかも知れないし、ケーブル側の人為的な物だったら
笑いますね。葬式鉄は私も嫌いです。
しかしまぁ、保存してるワケでもナイのに車体の塗装だけ変えて維持
されてると言う不思議な駅跡でした。続いて車で山上駅へ向かいます。
駅の北からすぐ登り坂になり、意外と険しい感じの山が見えています。
「屋島」と言うだけに江戸時代までは陸から離れた島だったそうですが、
干拓によって埋め立てられて陸続きになったそうな。
…しかしこんな急斜面な干拓地があるもんでしょうか?
途中に「四国文化村」と言う、古い建物を集めた観光施設があります。
そして屋島と言えば源平合戦の「屋島の戦い」でしょう。
終点の駐車場に入った所には絵巻物の写真も貼ってありました。
那須与一が扇の的を見事に射たというアレは中学の古典でも習い
ましたが、戦争(殺し合い)の最中に何故あのようなアトラクションが
存在したのか?
昭和35年に開通した「屋島スカイウェイ」と言う観光自動車道を登ると、
終点が大きな駐車場になっており、土産物店などがあります(帰る間際
に撮ったから閉まってますが)。
…自販機が何故かピカチュウだらけ。コレは一般的に存在する物?
山頂には四国霊場の1つである屋島寺や水族館などがありますが、
私の目的はケーブルカーの山上側の廃駅です。生憎と駐車場からは
寺を挟んだ反対側になるようですが、地図を見ながら歩いてみましょう。
駐車場にも山頂付近の観光案内図があったんですが、ケーブルカー
の廃止前に作られた物なのでしょう。駅や線路が描き込んであり、
「屋島ケーブル駅跡」と文字だけが書き直されていました。
…後で分かるんですが山上の駅跡は建物などは残ってるものの、
保存施設として公開されてるワケでもありません。一般的な観光客
が興味を持つような物でもナイし、歩くと遠いんです。
あっさり消しておく方が親切じゃないのかな?
それと看板には矢鱈とタヌキが出てきますね。屋島寺には太三郎狸
と言う有名な狸が祀られており、そこからの発想だと思われます。
屋島寺は四国八十八霊場の八十四番目の札所のお寺ですが、今回
はケーブルカーの跡地がメインなので「境内を通ったら近道である」
と言う程度にスルーしておきます。
…定年したら全体的な札所巡りでもやりましょうか。勿論「全て歩こう」
などと言う高尚な意図はありません。観光タクシーの延長と言うかね。
現役の駅じゃないので地図アプリには載っておらず、何度か間違えて
別の場所へ出たりしながら探しております。
…折角だから山の西側へ出た時に撮った展望写真が右の画像です。
高松築港とランドマークのサンポートタワーなどが良く見えました。
改めて地図アプリを航空写真に切り替えて見てみますとソレらしい
建物は写ってるものの、そこへ至る道が木に隠れて分かりにくいん
ですよ、しかも駅跡を差し置いて公衆トイレが載ってる始末。
ともあれ寺の南門から20分ほど歩いて、ようやく発見しました。
…昭和4年の開業と言う事で、レトロモダンな雰囲気の駅舎です。
先日行った六甲ケーブルの山上駅に似た雰囲気でもありますね。
当時としては最新鋭の乗り物だろうから、カネを掛けた結果でしょう。
ケーブルカーの山上駅と言うのは1階にケーブルを巻き上げる機械
を設置するワケだから、2階にソレを操作する運転室と営業エリアを
設ける場合が多く、やはり似たような印象になるのかも知れません。
…この時代の建物が廃墟になってると、どうしても心霊スポット的な
イメージを持ってしまうのですが、そんな話は聞いた事がありません。
横から見た所、車両はナイようでした。…先程の登山口駅に2両とも
降ろしてあるから、当たり前と言えば当たり前ですが。
ケーブルカーが廃止されてアクセスが完全に観光道路の方に移って
しまうと、こちら側の駅前にあった飲食店や土産物店が寂れてしまう
のも当然かも知れません。
…しかし車が駐まってるし(ドコかに関係者用の入口があるらしい、
ココまでの道も自動車の通行は物理的には可能)話し声が聞こえた
ので、営業してなナイだけで使用者(又は住人)は居るのでしょう。
人が居れば猫も居るわ。飼い猫らしい黒さんが居ました。…そして
藪の中で物音がしたので、更なる猫が居るのかと思って近付いたら、
「ブヒッ!」と声がして大きなイノシシが2匹ほど逃げて行きました。
以下おまけ。屋島は古代には中国大陸からの侵略に備えるための砦
が築かれた場所の1つだったようで、その遺構が復元されていました。
ココからの眺めも良かったので載せておきましょう。
…こんな山奥に砦を造るのは昔はカナリ過酷な労働だっただろうし、
作ったら作ったで警備員を置かないといけません。「大陸の脅威」が
違う意味で大嫌いな私は、古代人の苦労に痛く共感してしまいました。
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