2018年1月の事、地元奈良県にある興味深い廃線跡の存在を思い出した
ので探りに行く事にしました。
というかコレは未開業の路線なので、鉄道としての扱いはどぅなのか?
奈良県の南西部にある五新線という路線です。…遠方の方は御存知ナイ
かも知れませんので、また説明からになりますね。
「五新線」って名称から、地元の人なら予想
が付く通り、そもそもは和歌山線の五条と紀勢
本線の新宮を結ぶ目的で計画されました。
計画と着工は戦前からの事で、1959年に五条
から約12km先、当時の西吉野村の城戸という
所までの路盤が完成。
…しかし世は鉄道斜陽論、バスの方が随意に
停留所を作りやすいという事で、バス専用道路
として暫定開業します。
…歳月が経ち、平行する国道168号線の整備
が進むと、バスもそっちメインになって廃止。
…なかなかに数奇な運命の路線ではありますが、バスの廃止後に専用
道路の一部が地元向けに開放されたというウワサを聞きましたので、
探りに行ってみる事にしたワケです。
そんな感じで実家から車で五条市に向かいます。
京奈和自動車道もカナリの区間が繋がりましたので、早く行けるように
なりましたね。…JR和歌山線がますます貧相に感じる事になりますが。
はい、一応は五条駅からスタートです。目つきが怪しいのは、直射日光
が眩しいからですよ。
まずは駅前から国道24号線に出ます。…京都から奈良盆地を縦断して、
紀ノ川沿いに和歌山へ至る、奈良県では一番メインの国道です。
「本陣」という交差点を左折、南へ向かうと十津川を経て新宮へ向かう
国道168号線に入りますが、まずは少し先へ直進してみましょう。
五条駅を一旦、西の和歌山方向へ発車して、南へカーブしてくる(感じ
で計画された)五新線が、国道24号線をオーバークロスするための
コンクリート製の高架橋が残っています。
…1950年代の事ですから、些か優美なアーチ式のデザインですな。
しかしコレは電車もバスも通る事がなく放置のまま。勿体無いですよ。
では本陣交差点へ戻り、国道168号線
を南へ向かいます。
紀ノ川を越えると、程なくして野原と
言う地区に入ります。計画では五条を
出て最初の駅が、この付近に作られる
予定だったそうな。
辨天宗の総本山、学校としては甲子園
の常連校である智弁学園の近くですよ。
ココにまず、バス専用道路の入口があったような記憶がありますので、
その辺りから探って行く事にしましょう。まずココで見れるのが…
五条の市街地から南へ向かってくる築堤と、ソレから繋がって国道168
号線を跨ぐ感じに掛けられ(る筈であっ)た橋梁跡です。
…何れも「作るだけ作って放置」の物件です。使い回しの利かないモノ
だけに、どうしようもナイのですが、同様の未生成線は探せば全国的に
もっとあるワケで…その政策はホントに正しかったのか?と思いますよ。
基礎部分に取り付けられた銘板を見るに、工期が1957年〜1958年。
…時代としては例の鉄建公団が発足する前ですが、高度成長期の
似たような時代背景で、ホントに当たるかどうか不明なローカル線を
乱造していく機運があったのでしょう。
ではココから、いよいよバス専用道路の跡地を探ります。
…私も現地へ行く前に、色々な個人サイトなどを調べたのですが、
何れも路線バスが運行されてた時期のモノばかりで、もしかしたら
ネット初公開かも知れませんよ。
そもそもココは現在、どんな扱いなのか?元々は国鉄バス…転じて
JR西日本のバス専用道路だったのが2002年まで。
その後、地元民間の奈良交通に移管されたものの、2014年にバス路線
そのものが廃止になりました。
例えばJRのバスが走ってた時は普通の線路と同じようにJR西日本
の土地でしょうが、注意書きをよく読んでみましょう。
「市有地」って事はまず市の土地、「私有地」ではナイ所がミソだな。
「道路ではありません」…じゃあ何だ?
不自然に細長いけど扱いとしては公道でなく、例えば市役所の駐車場
みたいなモノと同じになるのでしょうか?…と解釈します。
という事で、まずは徒歩で探りを入れてみました。敷地境界を示す杭が
「工」マークですね。コレは国鉄時代から使われてたモノで、明治期の
「工部省」に由来するモノです。
…と思ったら、数十メートル先にイキナリ車止めが出てきました。
後から総合的に見て分かったのですが、要するに入っても構わないけど
大量に来られたら困る。…という感じで、全区間に於いての通り抜けが
出来ない構造になってるようです。
取り敢えずは別の入口を探すとして、国道168号線を南下してみましょう。
…具体的な目印を挙げにくいのですが、途中に野原地区の南側の集落
へ登る脇道があり、コレを進むと右のような交差点に出ました。
例の曖昧な「市有地」を示す看板がありますが、交差点の形状が鉄道
の何かに似てますよね。…はい、踏切そのものじゃナイですか。
ホントに入っちゃダメなら、扉に鎖でも巻いて施錠しておけばイイでしょ。
そうなってナイという事は黙認されてる?と考えてしまうワケですよ。
…では何となく緊張しますが、いよいよ五新線を直に走ってみます。
先程の専用道路入口まで、出来るだけ戻ってみた所、まずは左のような
アーチ状の跨線橋がありました。掘割になった部分を線路が通る(予定
だった)ので在所間の連絡に作られたモノだと思われます。
そしてカナリ錆びてますが、道路用の「警笛鳴らせ」の標識。
…明らかに鉄道のソレとは違うから、バス用に使ってたんでしょうね。
場所によっては集落の建物や畑に柵なしで隣接してる部分があるので。
元々が鉄道用に造られたルートなので、ソレほど急なカーブや勾配も
なく、見通しの利く直線区間が多い感じでした。
…レールが敷かれなかったクセに、柵が枕木の再利用ってのが何とも。
そして随所に交換用に広くなった箇所がありますね。
バス同士ならイザ知らず、普通車なら単線区間でも適当にスレ違える
ワケですが、折角だから対向車が見えた所で待ってみましょう。
…見ての通り、地元の方と思しき軽トラックなどは普通に走ってます。
バスがどんなダイヤだったのか、今となっては分かりませんが、途中で
交換設備が必要なほど走ってたのかな?1閉塞で足りそうだけど。
途中に一般道との交差点…鉄道なら踏切に当たる所がありますが、
線路とは逆に一般道の方が優先、つまりバスが一旦停止する格好
だったそうですよ。
元々、双方に自動車が走る事を前提としてナイので、左右の見通し
が悪い所もあります。カーブミラーをよく見ましょう。
そんな感じで、取り敢えずは走れる所まで走ってみる事にします。
コースの脇に何やら巨大な建造物がありました。
…どうやら水力発電所のようです。左の画像の黄色い欄干がある橋が
五新線の道路で、発電所そのものの設備はコノ巨大な水道管より下に
あり、コレだけの落差を利用してタービンを回すという事だな。
吉野は元々、山岳地帯で水脈も豊富な所ですから、このような設備を
造るのにも向いてるという事でしょう。
…列車が走ってたら、撮り鉄スポットの一つになってただろうな。
ぁ、猫発見!のろ風のサバトラちゃん
ですが、めっちゃ睨んでますね。
毛並みもイイので、道路脇の民家の
飼い猫なんだろうが、特に愛想がいい
ワケでもなく、程なく逃走しました。
コノ程度は猫ヨシヨシ未満となります。
…廃線跡と猫ヨシヨシが融合すれば
素敵なのに。
そしてバスは廃止されても、ルートの随所にバス停の跡が残ってます。
左の画像の奥に、小さくジョギング中のおじさんが写ってますが、屋根
とベンチのあるバス停は、散歩やジョギングの休憩場としても使ってる
のでしょうね。…掛けてあるカレンダーも最新(今年)のやつだし。
そして平地ばっかり走ってるかと思ったら、結構な高さの橋梁もあります。
…鉄建公団の時代になると、無味乾燥な四角いコンクリート橋ですが、
ソレより少し前という事で、導入部分にあったのと似た優美なアーチ式。
背の高いフェンスは、一般開放後に付け加えられたモノでしょうか?
バイク1台にしては広すぎる道床を走る地元の人。羨ましい環境ですね。
更に進むとトンネルが見えてきましたが、流石にコレは閉鎖されてます。
…鉄建公団以前の計画路線とは言え、山や谷も強引に真っ直ぐ貫く
姿勢なので、沿線には幾つかの長大トンネルがあるそうな。
しかしバス専用道路の末期から碌にメンテナンスが為されておらず、
一部には崩落の危険性があるモノもあると言います。
仕方がナイので、一度一般道に戻ります。トンネル入口の真上が丁度、
国道168号線に当たるようですよ。
左の画像に見える急な脇道を登って、トンネルの上に出ます。
…元が鉄道用に建設されたルートなだけに、殆ど一直線な線形なのが
確認出来ると思いますが。
錆びて朽ち果てそうになってますが「国鉄自動車専用道」の標識があり
ました。現在も残るJRバスの専用道としては、福島県の白棚線が唯一
なのかな?コレも今後の課題として残っております。
トンネルの真上にあった奈良交通のバス停が「生子」と書いて「おぶす」?
…奈良県の地名ってのは無駄に難読なのが多いですが、流石にコレも
一発変換出来ませんね。
ココの峠を越えると、今は同じ五条市ですが昔の西吉野村に入ります。
古くから柿の産地でして…ゆるキャラちゃんも「カッキー」…単純だな。
要は国道が未整備だった昔と比べて道路状態も良くなり、五新線とも
ほぼ平行してるワケだから、バスもこっちを走らせればいい。
わざわざ土地の税金を払って、設備を維持する必要もなくなりますよね。
現実にバス路線としての五新線の廃止後は、国道を通るバスを増便して
補完されています。
峠を越えると「賀名生…あのう」という地区に入ります。…奈良県の地名
ってのは(略)。この付近に駅が出来る予定だったワケか。
バスと言えば、途中で右のやつに出逢いました。
橿原市の大和八木駅から、十津川を経て和歌山県の新宮まで走るバス。
…高速道路を経由しないモノとして日本一の走行距離を走る路線バス
として知られています。
車が新しくなり、そのPR用ラッピングも為されるようになったようですが。
賀名生の集落から、また少し専用道跡に入れるようなので、途中で左折。
…元々は踏切的な設計で、途中から専用道へは曲がりにくい構造の所が
多いのに、ココは道幅が広く取ってあります。…利用を黙認と言うよりは、
推奨してるとしか思えません。
ぁ、また猫発見。…コイツもかなり栄養が足りてそうですが。
そして集落内では小規模な高架橋なら通れる所があるようです。
総合的に見て専用道を使ってるのは、以下のような感じになります。
@…地元で農作業をする人の軽トラック。 A…宅配便や郵便配達。
B…ジョギングや通学の歩行者。 C…私のような物好き。 D…猫
更に調子に乗って進んで行くと、またフェンスが出てきて行き止まりに
なっておりました。
…隙間から見てみるに、カーブの先には国道168号線を跨ぐ結構な長さ
の橋梁が見えます。でもコレはダメなんですね。
結局の所専用道が使えるのは、トンネルや大きな橋梁を除いた平地
部分で、集落と集落が隣接してて国道へ出ずとも裏道で結ぶんだ方が
ラクなケースの場所に限られるようです。
という事で再び国道168号線に戻って、先程見えていた長いコンクリート
橋梁の下をくぐります。…そして国道のトンネルを幾つか越えると、城戸
という交差点に達します。
五新線として五条から新宮まで行こうとすると、まだまだ入口な感じの
地点ですが、バス専用道路としてはココまでの運行でした。
…私も国道168号線を通って十津川や新宮まで行った経験はあるので、
見た事のある風景なのですが、国道から川を挟んだ対岸に、専用道の
終点だった城戸駅?が見えます。
交差点を左折して近くまで行ってみましょう。バスはココ止まりですが、
更に先へ続く高架橋と一部のトンネルは造られたので、無駄に立派な
高架の下に城戸駅への入口があります。…もぅ行くしかナイですね。
先述の通り上を通る高架橋は、さらに先まで路盤を建設しかけて放置
されてる部分です。…「一般車両の駐車は御遠慮下さい」だから「入るな」
という事ではありませんよね。
…敷地内にはバスの待合室と恐らくは乗務員さんの休憩室などがあった
小さな駅と、地元の小規模なタクシー会社があります。
車は手前の空きスペースに置いて、元のバスの駅を探ってみました。
奈良交通バスのHPによると、現在の城戸バス停は各方向とも下の
国道交差点に近い場所にあるようで、ココは既にバス乗り場としては
使われてナイようです。
…しかし「専用道城戸」というかつてのバス停名が残っており、待合室
も扉が開いてます。何も無かったですけどね。
そもそもが鉄道駅としても使う予定だった土地なんでしょう、バスの
転回スペースだけにしてはカナリ広いです。
…そして専用道は五条方向から続いていますが、ドコまで行けるか
先が見えないのでヤメておきます。
多分、またトンネルがあったらソコで終わりだと思われますし。
新宮方向へは、先ほど見えた高架橋と、更にソノ先のトンネルが完成
していますが使われておらず、広場は駐車場と化しています。
見ると明らかにフェンスで閉じられて
ますから、ココまでにしておきます。
現在、JR五条駅から城戸までのバス
は平日で8往復。それに十津川や
新宮までの系統が6往復加わります。
田舎ほど自家用車の所有率は高い
でしょうから、ソノぐらいで充分
なのかも知れません。
…果たして「鉄道を通す」だけのメリットはあったのか?と言われたら、
やはり「ヤメといて正解」なのかも知れませんね。
途中の観光地として、賀名生の梅林とか十津川の温泉などもナイ事は
ナイのですが、鉄道で客が来るほどの規模でもありませんし。
バス専用道としての現役時代に来れなかった五新線ですが、一般開放
という珍しい形態での旅が出来たのは、ちょっと面白かったです。
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